2013-07-29

CONTAX Carl Zeiss T* Vario-Sonnar F3.3-4.0/28-85mm


   雨が降ったり止んだりの1日となった。
   最近よく足を止める小川沿いの散歩道にて、ちょっと小休止。 水面に周囲の木々から落ちる水滴が、次々と波紋を描くのを眺めてみた。 風が吹くとまた違った紋様を描く。 ごく小さな面積でのちょっとした出来事なのだが、これが案外飽きない。

   このレンズを持ち出したのは初めてではないだろうか。 ついふた月ほど前に入手したもので、かつてフィルム・カメラ全盛期とも言える1980年代から1990年代に発売された、アブラの乗った型である。 さっきCONTAXのカタログを引っぱり出してみたところ、定価で¥154,000とあった。 この手のズーム・レンズなら、今時は3万円ほどから手に入る事を考えると、値段からしても"モノ作り気合度"は"強"である。 その頃には手が出なかったこのレンズも、今では中古で3分の1以下の価格で手に出来る。
   手元にあるデジタル・カメラの受像素子はフル・サイズではなくAPS-Cサイズなので、残念ながら28mmの広さは体験できないものの、35mm判相当で約44.8mm〜という標準ズーム的な位置づけと割り切ればそれなりに使い勝手は悪くない。

   現在Carl Zeissと言えば、ソニー、コシナが一般的なカメラ用レンズを製造している。 どれもそのメーカーなりのクセは出てしまうが、総じてCarl Zeissの味付けの方向は見事に踏襲されている。 ソニーの単焦点Zeissレンズに興味ありなのだが、ソニーのボディ意外との互換性が無く、カメラ・ボディーから揃え直しというのもちょっと...。
   そうしたあたりを出発点に、とりあえずボディ選びを始めてみた。 そして長いこと第一候補だったソニー製カメラは購入に至らず。 その最大の理由はマウント、次いでファインダーが電子ビュー・ファインダーだったことで、これだとレンズの素性も、覗いた時の空気感もわかりにくく、目も疲れそうだ。 おまけに水準器やハイライトのピークが表示されたりと、盛りだくさんのデータ表示が親切すぎて、"考え落ち"な写真が量産されそうにも思う。 キヤノンのフル・サイズ機"6D"も視野に入れたのだが、ボケ味がクルクルとカーリーであまりキレイに見えなかったので候補から外れた。 "カーリー"はレンズのクセではない。 見る限りは受像素子のクセである。 似た位置づけのカメラでニコンのD600があるがこれは秀逸な出来だった。 が、レンズ・マウントを自力で交換しないとニコンのボディにはCONTAXマウントのレンズは付かない。 マウントを交換してしまうと、手元にあるCONTAX Ariaでは使えなくなってしまう。 それで... キヤノンのEOS Kiss X6iを安価に入手してしまった次第。

   "Zeiss"の製造といえば、今年市場に出て来た"touit"というシリーズはSigmaが製造しているという噂がある。 Sigmaの単焦点は、やや薄味な傾向を感じるが繊細さとヌケは好感が持てる。 "Zeiss"の要のひとつはレンズのコーティングで、Sigmaのレンズ製造技術にZeissのコーティングが施されると、コッテリとした色味や高コントラストかつ、より豊富な階調により独特な空間表現が得られることだろう。 その組み合わせはなかなか興味深い。 勢いに乗って各社マウントのAPS-Cサイズ向けCarl Zeissのズーム・レンズも作ってくれないだろうか? とは望み過ぎか。 尤も、そもそもが噂のレベルなので取りとめのない話ではあるが。

   さてこのVario-Sonnar 28-85mm、さすがに気合いの入った設計・製造で、CONTAXブランドを冠する製造・販売元であった京都セラミックと、そのカメラ部門の前身であるヤシカ(八州光学)、そしてレンズの製造をしていた更に前身(?) である富岡光学の技術の傾注を感じる。 見た目に堂々とした風貌にも、惜しみなく"高画質"を追求した意気を思う。
   Sonnarは優れた質感描写が特色の一つではあるが、Planarの精細さからすると何処となく大雑把さを感じてしまい、どこかしっくり来ない事が多い。 Planarでズームというのはレンズ設計的にあり得ないのか、あっても複雑怪奇な構成になってしまうのか、現実的な落ち着き処としてはVario-Sonnarという事になるのだろう。
   しかしこのVario-Sonnar 28-85mmは、どこかPlanarを思わせる立体感と繊細さを持っているように感じる。 同じくVario-Sonnar 35-70mmは、立体感というよりはまったりとした場の雰囲気を得意としていたし、同じく28-70mmは、そこそこのキレとマクロが使えるという利便さがあるものの、立体感が弱く、画がベタっとして見えてしまうというのが今のところの感想だ。

   最近、ヤシカから出ていたYashica ML 28mm F2.8という玉がなかなかの描写力だと知った。 富岡光学がZeissレンズと同じ製造ラインで、技術屋根性込めて密かにドイツの技術者にライバル心を燃やしていたのでは? と言われるレンズだ。
   そうしたエピソードを聞いてしまうと、数社でライセンス生産品が存在する"Carl Zeiss"のなかでは、殊「写り」に独特の探究心をもって具現化されてきたであろう --- "CONTAX"贔屓になってしまう。