2017-08-03

雑感 〜 f=28mmの遠望感

   急に思い立ってLeica Summicron-M 35mm F2 Asph. Ⅳ (11879C) を購入。
   やってきたのは1997年に発売された「第4世代」で、製造番号から辿ると2000年以降の製品。 Summicron-M 35mmは2016年1月にリニューアルされ「第5世代」(11673)が現行機種となる。 絞り羽根が増えてボケが滑らかになったとか、タル型収差の補正が向上した等々の評価を見かける。
   これまで「35mm」は、描写の気に入っているVoigtländerのColor-Skoparを多用してきた。 そろそろコシナも35mmのリニューアルを考えているんじゃないか? 少し待とうか? と思いつつあれこれ思案していたが、タイミングとは恐ろしいもので、ふとSummicronを入手した次第。

   もともと「f=35mm」という焦点距離には馴染みがない。 「f=35mm」は Leica M8に付けるとf=47mm相当となり、この45mm前後の画角の心地よさから「f=35mm」である意識は抜けてしまい、f=28mmでは37mm相当と、何となくでも「f=35mm」を味わえるはずが、困ったことに頭では「28mmを使っている」と思い込んでしまう。
   それでも近年、35mm判フルサイズ・センサー機を使う機会もでき、ならば「f=35mm」に、まんま「f=35mm」として向き合おうじゃないかという思いも増し、気になって各社ライン・アップを見渡した。 選択肢は多いながら、「これはボケがいまひとつ」、「これは大きすぎ」、「これでは重い」、「これは高価すぎる」と、どれもがストライク・ゾーンを僅か外して点在して見え、そうした「迷い」がために、結局いつも思いは振り出しに。
   そうした、「帯に短し襷に長し」な「35mm」の選択も、このSummicronでようやくひと落ち着きかと安堵しかけた。
   ところが、やって来たSummicronはやや難あり。 返品はできたものの、その手続きを終えた頃にはすっかり気が抜けてしまった。

   虚ろながら我に返って思ったのは、「35mmはVoigtländerのColor-Skopar 35mm F2.5 Type-Cがあれば十分かも。」と、「f=35mmの迷い」は、意外な展開でにわかに収束してしまった。



   この一件とは関係なく、しかし同時期にLeica Elmarit-M 28mm F2.8 Asph. (11606) がいなくなってしまった。
   このElmarit-M 28mm 5代目は、2006年、M8と同時に発売されたレンズで、筐体の小ささ、軽さ、どこか愛嬌のある風貌で、カリッとした印象のシャープさが心地よく、繊細だが力強い線、クールな描写と、持ち歩いていて楽しいレンズだった。
   Elmarit-M 28mmは2016年1月にリニューアル (11677)された。 樽型収差や、フルサイズ機での、線や輪郭の二線化、パープル・フリンジ等への改良が施されたかと想像する。



   このちょっとした虚ろなとき、ふと、新たに「28mm」を求めようかと思ってしまった。

   と言っても懐具合もいまひとつで、まずは現行モデルを見てみると、Leica Summicron-M 28mm F2、Summilux-M 28mm F1.4、Elmarit-M 28mm F2.8、Summaron-M 28mm F5.6 (受注生産) とLeicaからは4機種、他社から ZEISS Biogon T* 2.8/28mm、Voigtländer Ultron 28mm F2があり、Leicaは軒並み高価だし、他社は2機種のみで、うち所有しているBigonを除くとUltron一択という寂しさ。
   過去モデルは、Leica Elmarit-M 28mmの Ⅳ (1993年登場)、同 Ⅲ (1979年登場)あたりを中古市場で見かけ、他にはVoigtländer Color-Skopar 28mm F3.5、M-HEXANON 28mm F2.8、M-Rokkor 28mm F2.8などが気になった。
   Elmaritの2世代前の「第4世代」(Ⅳ)か Color-Skoparが案外よく写るように思える。 ただ、中古でイタイ目に遭ったばかりなので、これはこれで大いに躊躇した。 Color-Skoparは至極興味があるのだが、残念ながら殆ど出玉がない。


   いろいろと思いは廻るものの、冷静に「いますぐ『28mm』が入用なのか?」といえばそうでもない。
   ところが、急速に色々な状況が重なってきて、事もあろうに第一世代のLeica Summicron-M 28mm F2 Asph.を購入してしまった。 いつもなら、「こういう被写体の写りは、あぁだろうか、こうだろうか」と、資料も集めて想像と熟考を重ねる日々を経てから購入に至るのだが、今回は急展開。 そのせいかこの買い物、ぷるぷると妙な動揺を伴った。
   Summicrom 28mmは全く初めての世界。 さてこの先どんな写真を撮ることになるのか見当もつかない。


   不用意な戸惑いがため、「そもそも『28mm』ってどんな世界だったかな...」と記憶を辿ってみた。
   初めての「28mm」はPentax Super-TAKUMAR 28mm F3.5で、そのファインダー越しに広がる開放感、その空間の面白さに魅了され今に至る。
   今でも気になるPentax smc-TAKUMAR 28mm F3.5は、時々ネット上で作例を見かける。 わりとソフトな階調表現を見て、「やっぱりこれも良いなぁ」と思う。 その他ではYashica ML 28mm F2.8。 こちらも作例を見かけるが、広角具合に似合う心地よい風合いのシャープさを感じて取れる。 両者とも、色調としては「ややオールド」な雰囲気に黄色というか、アンバー系な発色のよう。

   この旧い時代のレンズに特有のものだったのかもしれないが、「28mm」にはもうひとつ惹かれるものが思い当たる。
   それは、広角レンズらしい「開放感」のほか、画面の奥に向かって遠くを望むような「遠望感」。 f=35mmでもなく25mmでも21mmでもない、「28mm」の奥行きこそだろうそこには、謎めいた空間が現れ、時に何かが潜んでいるような気がしてくる。 怖いもの見たさのような求心力。 迂闊にも自分の心象を映し取られてしまったような、「写真撮られると魂ぬかれる」的な妙な感触。 -- 自分は撮り手で「こちら」側、安全地帯にいたはずなのに...。 その奥に何が写っているのか、謎のままが良いのか -- そう思いながらも、つい踏み入れてしまいそうになる「f=28mmの謎めいた遠望感」。


   *2017-08-25 追記
   久々に足を運んだLeicaの販売店での話 --- 「Summicron-M 28mmの今回の改良の成果は非常に大きく、前の世代のときフルサイズ機で出ていた周辺の流れなども驚くほど良好に補正されている」。  特に広角系の新レンズは、レンズ構成は同じでもガラス材の変更をも含む「新設計」を経、フルサイズ・デジタル機+旧モデルで見られたタル型の歪み、像の甘さ、フリンジ等の改善があり、元々わずかだったそれら収差を追い込んだ結果、その描写力は「圧倒的な進化」を得たと言う。 そして「2016年のリニューアルで広角系は全てが新レンズに置き替わった」のだそうだ。 最後に、「特に、3.4の21、あれをフルサイズで撮ったときの画は圧巻です」と力説されていた。
   実際に初代Summicron-M 28mmを35mm判フルサイズ・センサーのカメラに付けて撮ってみると、周辺の流れや、収差から来ると思われる線の弱さを感じることがある。 使い込んでゆくとそうしたクセは気になるだろうし、最新レンズならば何も気にせず済む安心感はあると思うが、古い設計であっても、「玉のクセを鑑みて被写体を選ぶ」といった一種煩わしさはほぼ無く、むしろ自然と気持ちが被写体に向いてゆく懐の深さに感心する。