もう5年ほど前になるだろうか、清里にあるK*Mopa(清里フォトアートミュージアム)で、写真家の加倉井 厚夫氏にお会いした。
温厚な雰囲気にイカツいニコンの一眼レフ。ミュージアム・スタッフとの打ち合わせにたまたま居合わせたのだが、宮沢賢治にまつわる様々な話題と、星に関する様々な話題が次々に語られた。
どれも興味深いものだったが、なかでも印象に残ったのが、オーストラリアで星の撮影をしたときのエピソード。撮影をしていると、何やら自分のまわりにモヤモヤ動くものがあるという。目をこらすと、なんとそれは自分の影だったというのだ。シリウスの明かりが作る影、木星の明かりが作る影、なんと5方向くらいにモヤモヤと星の影が見えたという。
新月で快晴、澄んだ空気 - 天体の撮影では、こちらがどんなに意気込んでもなかなか好条件にはめぐり合えないのだが、星の影に囲まれる好天とは、なんと貴重で贅沢なひとときだろう。
加倉井氏のウェブサイトは、今年2011年、開設15周年を迎えたとのこと。テーマは星、宮沢賢治、山。
星ということで、自分の体験を1つ思い出した。
アメリカ南西部を列車で走っていたときのこと。場所は北カリフォルニア - 夜中の3時にふと目が覚めて、2階建て列車の2階の客席から、1階部分に下りていった。1階にはトイレ、洗面、荷室と乗降用のドアがある。そのドアには窓が付いていて「走行中に開けてはいけない」と書かれているのだが、レバーを90度ひねるだけの簡単なロックで、ちょこっと開けてみた。
そこにはスモーク・ガラス越しでは分からなかった、またたきひとつない星の大群が、空に張り付くようにびっしりと光っていたのだ。もちろん天の川も肉眼ではっきり川のように見えるし、大小さまざまな丸い点が、迫ってくるかのように、また目を凝らすと遠くへ大きく広がってゆくようにも見える。何しろ圧倒されるような星空と、その瞬(またた)きのないところからは、空気が静止している様子が想像された。
大陸の星空を見るには --- ちょこっと禁をやぶる必要がある...。